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映画「駅 STATION」を観て [映画・DVD]

1981年公開の「駅 STATION」は、「鉄道員(ぽっぽや)」同様北海道を舞台に、高倉健を主演に降旗康男監督が撮った映画です。
愚直で寡黙なイメージの強い健さんは言葉にするまでなく…警察官、鉄道員とどの役柄も似合います。
撮影はこの後映画監督に転じた木村大作。映画好きだけでなく、鉄道ファンにとっても目の離せない名作といってよいでしょう。
かつて留萠本線の終着駅であった「増毛」を主な舞台に、脚本は倉本聡。
作中でテレビの報じる、ニュース映像…。
東京オリンピックのマラソン競技でイギリス選手ヒートリーにトラック内で抜かれるも、銅メダルを獲得した円谷幸吉。
しかしその後の不調、周囲のプレッシャーにより円谷は自殺。「幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」と書かれた遺書の言葉は小学生であった私もよく覚えています。
オリンピックの射撃チームの一員に選ばれ、多忙な生活ゆえ夫婦関係が冷えきって…、幼い息子とも別れを経験する警察官三上英次=: 高倉健。彼も同じような気持ちを抱えて、そのニュースに見入ったのだろう。

長い間「陸の孤島」と呼ばれ、北海道を代表する秘境のひとつであった雄冬漁港に住む英次の母に、北林谷栄。作中に登場する雄冬の実家のシーンには前日記の国稀酒蔵さんの建物が使われたと言います。
最果ての北国でくり広げられるハードボイルドな世界。道内でこれ程派手な殺人事件、それをオリンピック候補(幻となったロシア五輪)とはいえ、ひとりの警察官が全てに関わり活躍するなど現実にはありえないけれど。
道警のキャストとしては、池部良、佐藤慶、平田昭彦、大滝秀治・・と。誰もがそこにいるだけで画面が決まると考えられる存在感を放つ。
犯人役にも根津甚八、室田日出男・・・こちらも同じく、今は故人となっている懐かしい顔ぶれ。
甘いマスクの二枚目である根津甚八が、残忍な事件を起こす、通り魔犯と言うのは納得できない点ながら・・・。
旅館の仲居役では、一時「デカ頭」と派手なお喋りで人気のあった塩沢ときも出演をしていました。時代を感じます。本作で音楽を担当した宇崎竜童は、町のチンピラ役がハマり役、似合っています。

留萠本線の留萠~増毛は日本海に沿って走る風光明媚な路線、しかし平日は日に数本しか走らないローカル線。映画の後半は1979年の年末という設定だがら、そうした乗客の少なさも合う。
駅で来るともしれない人を待つ桐子=倍賞千恵子、彼女の姿を一目見て気になった英次。
犯人を射撃する=殺人と同じ行為の連続によって、強靭な精神をもつとはいえが限界がきていた彼は職を辞して、故郷の雄冬に帰ろうと決心するのだった。

雄冬行きの船が欠航となった為、一人で年末を迎えようとしていた英次だが、駅前でポツンと明かりの灯る店を訪れてみる。そこは偶然にも、駅で見かけた桐子の営む店であった。
会話をしていく内、急激に親しくなる二人。互いにもう若くはない英次と桐子は、お互いの身の上を探り合う。ある時は言葉を濁し、ある時は相手をはぐらかして…でも急激に接近をする。
寂しさの中に身を置く英次と桐子が、男女の関係になるのに時間はかからない。
人影のない居酒屋のカウンターを前に、桐子が英次に寄りかかる場面も…頼りがいのある男の中の男、健さんなら、ある、ある・・・ですね。
英次に身体をあずけて桐子は歌を口ずさむ。言葉少なく演歌に聴き入る二人。
          駅.jpg

妻の直子=若き日のいしだあゆみが綺麗で、可愛いのは勿論。
それ以外に、改めて観て・・・強い意志を感じさせる真っ直ぐな眼差し、理知的な顔立ちをした倍賞千恵子の女っぷりは良く映り、同性でも好感がもてた。

雪深い北国の小さな駅、そんな駅に佇む高倉健、雪道を歩く姿、フェリーに乗って故郷へと向かうシーン。・・・とお約束的な映像が続く訳ながら、ピストルを手にして殺人犯を追い詰めるところも含めて全てが「絵」になっているから、ファンにはたまらない一本に感じます。

殺人犯・森岡=室田日出男は、桐子の昔の男だけに・・・英次と、桐子の別離へとつながるキーマン的な役割を果たします。
正義感から森岡を撃ったあと英次が店を訪れた時には、好きである気持ちは変わらないけれど、それでも二人の関係にけじめをつけるべきと背を向け、そっけない態度で接する桐子・・・彼女の芯の強さ、意地を見せつけたシーンであったと思う。
真実を知ってしまったあとでも桐子を手放したくない・・・と、再び店に立ち寄ってしまう未練がましい英次。うじうじとした姿を見せつける男の狡さを感じました。
増毛駅で英次と時を同じくして、殺人犯五郎=根津甚八の妹すず子も札幌へ出て行く・・・ラストシーン。
ただでさえ小さな町「増毛」で、指名手配犯の射殺事件に関わってしまった桐子。もうこの町で居酒屋を続けていくのも快く思われないであろう・・・事は容易に想像出来る。
となると、彼女はどう身を処すべきか。中年過ぎの女が一人で、これからどうやって生きていくのであろう。
本作に登場する3人の女性はそれぞれ一応に不幸の影を背負って、それでも生きてゆくしかないのだ。
ダイナミックな海辺のシーン、カメラワークの冴えに木村大作の初監督作品「劒岳 点の記」の原点を見た思いがしました。
起承転結するストーリー運び、味わいある言葉のやり取りも倉本聡ならでは。相変わらず上手くて、良い仕事をしますね。

某俳優Mの「皆がもつ健さんのイメージは、虚像」と言ったエピソードがありますけれど…、
出演作品を観たファンがもつ寡黙で、生真面目、人情深い俳優・高倉健の美意識を守りとおしていく、それを私生活でも続けるのは容易ではない。我々凡人には真似の出来ない努力と、どれほどの自制心を必要とし信念を貫いた事か。スキャンダルまみれの私生活を送ったあの人になど言われたくないわ。

健さん縁りの人がワンシーンだけカメオ出演をしているのは、山田洋次監督作品と同じです。
北国の白い風景をバックに、荒ぶる冬の海、凍てつく真冬の駅・・・と、ベタなシーンの連続ながら。。でもそこが良いの。高倉健、倍賞千恵子演じる大人の恋と別れが、心に深く残る一本でした。

駅 STATION[東宝DVD名作セレクション]

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD



thanks(68)  コメント(13) 
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コメント 13

末尾ルコ(アルベール)

素晴らしいですね。高倉健、倍賞千恵子の主演二人はもちろんのこと、この豪華な共演者たち。近いうちにまた観返したいです。このところわたしは倍賞千恵子の見事な女優ぶり、そして人生の送り方にも大きな敬意を抱いており、この作品はまさに観どころ満載ですよね。
高倉健については何だかんだ言って、人生そのものが偉大な作品だったとしか表現のしようがなく、世界的に見ても稀な映画スターだったと思います。何より凄いのは、邦画全盛期の時代から、邦画が大きく落ち込んだ時代、そして日本が軽薄極まりない状況となった現代まで、「映画スター」を貫いたことですね。デ・ニーロの演技に驚愕し、ジャン・ギャバンを目標としていた・・・などというエピソードも素晴らしいと思います。
任侠映画の健さんも大好きで、怒ったシーンの殺気は凄まじく、日本刀を持って画になるのは雷蔵と双璧ではないかと思うのです。RUKO

by 末尾ルコ(アルベール) (2018-10-22 01:06) 

hana2018

末尾ルコ(アルベール)さんへ
私もずっと以前一度観て、ストーリーはわかっていたものの、出演したキャストがこれ程豪華であった事に今回気づかされました。
英次と桐子の二人の関係だけが全てではないのだけれど、強く印象に残るのは上のシーン、別れなのです。勿論フィクションであると理解はしているものの、、二人にとってはひと時の夢、しかし苦い後味を残した…切ないものであったのだから。
日本人にとり男女を問わず、それは映画界の人間にとってもあこがれの存在であり続けた・・・高倉健。それだけに彼は常に孤高の人であった。
本作は、我々のような年齢になってから出会い、鑑賞するに値する映画との実感をもちました。
是非、ご覧になってください。そしてRUKOさんの感想も書いてくださいませ。

by hana2018 (2018-10-22 08:37) 

まつき

こんなに有名な作品なのに、見た事がない私って・・・(;^ω^)
映画を見てなくても、雰囲気のある街並みにはテンションが
上がりそうです!
それにしても某俳優M、随分と偉そうなコメントですねぇ。
誰だろか??(;^_^A
by まつき (2018-10-22 11:02) 

ゲンさんおかさん

この映画は見たことがあります。
・・・が、あまりよく覚えていなくて。

子供の頃からアメリカのドラマ好き。
日本映画の暗い情念の世界が苦手です。
実は寅さん・釣りバカも嫌いでしたが、
最近、見るようになりました。
そのくせ社長シリーズは好きで
正月が近づくと、BSでよく放送するので
見ております。当時の服装・風俗に興味があるのです。
昭和は貧しさと高度成長が入り混じった
カオスの時代でしたね。


by ゲンさんおかさん (2018-10-22 11:16) 

hana2018

まつきさんへ
まっちゃんももう少し大人になったら…こんな切ない恋をする心境も理解できるというもの(笑)
訪問したのが真夏の8月であったとはいえ、人影も少ないこじんまりとした町や、駅の佇まいには感じるものがありました。

妻子ある身に関わらず、仁科亜季子との不倫から結婚へ、その間にも元歌手との間に隠し子やら…。オマケにその後、息子のスピード離婚やら、パッとした噂は聞こえてきませんものね。

by hana2018 (2018-10-22 11:24) 

hana2018

ゲンさんおかさん様へ
>日本映画の暗い情念の世界が苦手です。
実は寅さん・釣りバカも嫌いでしたが、
私と同じで明るく見せてはいけけれど、実は根暗とおっしゃるおかさん様なのに!?本当はその反対では???
映画も、小説も、実に暗いものが好きな私。だから「寅さんシリーズ」の良さ、人気は理解出来ないまま今に至っております。
本作品全体に漂うのは、まさに昭和の時代そのもの。犯罪と、人のもつ人情と人恋しさと…。様々なシーンに、懐かしい気持ちでいっぱいになりました^^


by hana2018 (2018-10-22 11:34) 

英ちゃん

鉄道ファンにとっても目の離せない名作
だけど、私は全部は見てません(゚□゚)

by 英ちゃん (2018-10-22 17:42) 

hana2018

英ちゃんさんへ
車社会への移行と、鉄道乗客数の減少から、次々廃線となってしまった道内の鉄道各線です。
健さんが主演した「鉄道員」も同じながら…ここ増毛の留萌本線も、今となっては乗っておくべき路線だったと思いました。
by hana2018 (2018-10-22 21:39) 

yoko-minato

おはようございます。
高倉健さん・・・いい俳優さんでしたね。
この映画は見ていないですね。
もうこういう男性は今の時代には
見かけないですね。
by yoko-minato (2018-10-23 07:20) 

hana2018

yoko-minatoさんへ
こんばんは。
高倉健ほど誰からも愛され、尊敬される大スターは今後現れないような気がします。
ルックス、声の良さ、貸し出す雰囲気は圧倒的であり、彼こそが本物のスターであったと。
現在の映画に出演する俳優たち…その誰もが小粒であり。。老若男女、世代も問わずに、人気と存在感を兼ね備える俳優って、チョッと見当たらないように思えてなりません。
by hana2018 (2018-10-23 21:23) 

いっぷく

>某俳優Mの「皆がもつ健さんのイメージは、虚像」と言ったエピソードがありますけれど…、

これはそのとおりだと思います。
そのMとやら以外にも業界ではみんな知ってるでしょう。
たとえば倍賞千恵子にしても、児島美ゆき同様の仕打ちをされたわけですから。
ただそうではないと思える優しい真面目な面もあり、大きな視点で見ればプラスもマイナスもある「普通の人」です。

私は気になる俳優に対して都合の悪いところは見ない宗教的な信奉はしません。
むしろ、弱いところ、きたないところを積極的に知った上で、人というものはなんだろうということを考えさせてもらっています。
そして、弱点や誤謬を手段を選ばず隠すようなことはせず、見せても構わないという人こそが、本当に強く立派な人なのだとおもっています。
by いっぷく (2018-10-23 22:12) 

よーちゃん

健さん、同性の私から見ても、渋いです。
かっこよすぎです。
私生活では色々あったのも事実やけど
スクリーンの中では存在感がピカイチと思いますね。
by よーちゃん (2018-10-23 22:23) 

hana2018

いっぷくさんへ
>たとえば倍賞千恵子にしても、児島美ゆき同様の仕打ちをされたわけですから。
結婚する前の私生活は隠しに隠した…福山なにがし・・・と同様と言う事でしょうか。
俳優や歌手と言うものは、ルックスや才能は勿論、人気=金銭につながる、ある意味商品であるわけだから、人々に与えるイメージは大切なものと思います。
しかしいっぷくさんの仰る…
>弱いところ、きたないところを積極的に知った上で、人というものはなんだろうということを考えさせてもらっています。
そこまで高尚な考えのない私は、そこまで深い見方は持ち合わせておりません。
また人間なんて突きつめていったら、誰だって皆普通の人ですもの。
このようなブログの書き手に対しても、そのような考え方をなさっているのでしょうか。

よーちゃんさんへ
>スクリーンの中では存在感がピカイチと思いますね。
彼こそが若い時分の男前の頃から、その年齢に合わせた役柄を得て、亡くなるまでずっと映画スターそのものであり続けた、稀有な存在であったと私も思います。
by hana2018 (2018-10-23 23:02) 

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