先週、国内では公開されたばかりの「アメリカン・スナイパー」を観る機会をえましたので・・・今日は映画の話です。
          

アメリカ海軍・特殊部隊の元隊員であった、クリス・カイルの自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を元に、巨匠クリント・イーストウッドが映画化した本作。
公開されるとすぐに同.監督作品中でも最大のヒット作となり・・・また22日(アメリカ時間)に開催される、第87回アカデミー賞でも計6部門でノミネートされているのです。

少年クリスが夢見た職業はカウボーイか、軍人。長じて海軍への入隊後は、特殊部隊であるネイビーシールズのチームに配属され、狙撃手として働いた・・・クリス・カイル=ブラッドリー・クーパー。
原作に惹かれたブラッドリー・クーパー自身が映画化を希望したと言う。
ギリギリまで体重を増やしての、渾身の役作りのせいか、まさに本人そのもののように感じられました。
すでに著名な俳優であるのに、出演作を観ていなかった私はキャリアさえ未知のまま。
本作がお初であったのだけれど、しかしその存在感は圧倒的であり、地味な戦争映画といったジャンル・・・に関わらず冒頭から引き込まれてしまったのであった。

特に有名な俳優さんの出演もなく・・・その辺りも新鮮な気持ちで受け入れられた事と関係しているように思えます。
アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた過去の二作品、「世界にひとつのプレイブック」「アメリカン・ハッスル」と、どちらも未見なので演技力についても不明ながら、俳優を目指す若者であれば、誰もが憧れるあの「アクターズ・スタジオ」で演劇を学んだとの事なので、実力派であるのは間違いないものかと。。
「アクターズ・スタジオ」は・・・ケヴィン・スペイシー、メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ・・・等、オスカー受賞俳優・映画監督へのインタビュー内容で構成された番組。
日本では「・・・・自らを語る」のタイトルで不定期に放送される・・・「アクターズ・スタジオ・インタビュー」でお馴染み。
放送するのに気づいた時、贔屓にしている俳優の時など、私も数回見ています。

戦場を舞台とする映画で真っ先に思い浮かぶのは、S・スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」です。
第二次世界大戦中のノルマンディー上陸作戦。映画の冒頭、オマハ・ビーチ上陸の大迫力シーンは、海辺に浮かぶ大量の死体、真っ赤に染まった海。・・・と相当エグイものがありました。

本作ではまず音響効果の凄さにやられました。
本物の地震がおきたのかと思った、戦場となる町並みを進む戦車の音がリアルそのもので…そこから観客も一気に戦場へと導かれてしまうのでした。
戦地に赴いた彼は優れた「狙撃手」として味方の命を救ったのだが、覗き込むスコープの先にあるのは兵士やゲリラだけではない。
爆弾をかくし持つ女性や子供もいたのだ。
自らが子をもつ親として、愛する妻のいる夫として・・・躊躇い、しかし常に的確な判断を委ねられる狙撃のシーンは、当然ながら緊張の連続です。
共に戦う仲間が、目の前で苦しみながら命を落とすこともあった。
イラク武装勢力からは「ラマディの悪魔」と恐れられた・・・男でも、多くの苦悩を抱えもつ。。

極限状態の中で生きぬいた後、アメリカの家族の元=日常生活に戻って暮らす。ようやく自分を取り戻すのも、つかの間。
通算4度もの任務の追行。
帰国して普段の生活に戻ったからと言って、気持ちが簡単に切り替えられる訳もなく。心ここにあらずと言った状態が続く中、夫の言動に振り回される妻。
やるか、やられるか。綺麗事で済まされない戦場での日々が続いて。。帰国しても、自宅へ帰る事さえできなくなってしまう・・・戦争が彼の中に残した残がいの大きさ。
相当な精神力の持ち主とはいえ、真の意味で、戦場からの帰還はあったのだろうか。

撮影はロサンゼルスで、時事に疎い私でも、まさか中東で撮れる訳はないと思った・・・戦闘シーンはモロッコだそうです。
除隊後に、同じように戦場での体験が元で精神を止んでしまった若者に関わった結果・・・

観る側に解釈を委ねた、映画のラスト。沈黙の意味で?エンドロールが流れる間は「音のない間」がとってありました。
それでも席をたつ人の姿はなかったような。。

「 許されざる者」「ミリオンダラー・ベイビー」で二度のオスカーを受賞。
その後も「ミステック・リバー」「硫黄島からの手紙」と撮る作品はどれもが傑作ばかり。
俳優としてだけでなく監督として、優れた仕事をし続けているクリント・イーストウッド。
戦場を題材にしたものでは、「硫黄島からの手紙」があります。
http://plaza.rakuten.co.jp/simarisu2/diary/200704280000/
外国人から見たら同じように見えてしまうであろう日本人のキャラ、その一人一人をキッチリと描いた。
心に残る作品。監督としての力量が大いに感じながら、観た覚えがあります。
その前に公開された・・・アメリカ側から見た硫黄島の戦い「父親たちの星条旗」・・・こちらは残念ながら未見でしたが・・・。
同じく監督作品で観ているものに、社会問題を扱った「チェンジリンク」があります。
http://plaza.rakuten.co.jp/hana7899/diary/200903110000/

アメリカン・スナイパーを観て、思い出してしまったのが・・・キャスリン・ビグロー監督作品「ハートロッカー」でした。
アメリカ軍爆発物処理班の活躍を描いた映画は・・・観客である我々も同じく、見ている間中緊張にさらされる。
任務の終了後、また命の危険を顧みず戦場へと戻ってしまう・・・彼らにとって戻っていく先が家族の元でなく、戦場である点も共通しているのです。
http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2011-12-03

これまで長きに渡って、世界の戦闘地域へと自国の若者を送り続けてきた・・・アメリカ。
そんな国のあり方、人と人が戦う意味。様々な複雑さを・・・我々観客へ委ねた、ラスト。
同じ戦争映画とはいえ、エンターティメント性を重視するS・スピルバーグ監督との違いは大きくて。。。エンタメ要素も少しはあるものの・・・容易に善悪など問えない、監督の一筋縄ではいかない作品作りへの姿勢が垣間見られたように思えました。

小さい頃から心優しく、正義感の強い子供であった。いつも戦地の子供達を救いたいと・・・
最近、耳にした(〇藤の母)の・・・言葉が虚しく響く。。