月と蟹

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/09/14
  • メディア: 単行本


「カササギたちの四季」に続いて、道尾秀介作品「月と蟹」を読みました。
本作品により、作者は第144回直木賞を受賞しています。

小学生の慎一は鎌倉にほど近い、祖父の住む小さな海辺の町へと引っ越しをするものの…その後病気で父を亡くしてからは、つつましい借家で母と祖父と三人で暮らすようになる。
転校先の学校では、その祖父が過去に足をなくした漁船の事故が原因となり、仲間はずれにされてしまいます。
その事故でもって母親を亡くした少女・鳴海だけは仲良くしてくれるが、ほかのクラスメイトたちからは冷ややかな視線を浴びる毎日。

両親から愛情を受けられずにいるらしい、同じ転校生の春也が唯一の友達となって、二人は「ヤドカミ様」と呼ぶ残酷な遊びを考え出します。
お小遣いが欲しい、いじめっ子をこらしめる・・・他愛ない儀式から始まったものが、慎一の切実な願いへと変化していくところに子供の幼い残酷さが感じられました。
鳴海も加わっての、小学生の秘密の願い事の儀式。

そこに、慎一の母と、鳴海の父との恋愛があって。。。
母親が鳴海の父親と交際していることを疑い、孤独と不安を募らせていく慎一。
事故で母親を亡くした原因は慎一の祖父にあるのだと、寂しさから未だに恨みを持っている鳴海。
そして親友の春也は、酒乱の父親から虐待を受けているのだった。
彼らはそれぞれに、自らにはどうにも出来ないやっかいなものを胸に蓄積しつつ耐えている。しかしそれもいっぱいになってくる時がやってくる。
3人のそれぞれの境遇と、関係の微妙さ。それぞれの思惑が複雑に絡み、重たい展開を帯びてくるのでした。

子どもにとっての親の存在は特別なもの。二人はそれぞれ、自分たちの親を自分の元に取り戻す為の行動をし始めます。
すでに忘れてしまっているのであるのだが・・・
幼さは残るものの、子供って大人が思っているほどには子供ではない。
耳にした事から色々気付いているのもあるし、ちゃんと考えていることだってあるのだ。そんな子供たちの心理描描写が丁寧に巧みに描かれています。
対して大人は子供が思っているほどには大人じゃない、と言うのは常日頃感じ続けているものである。

自分の心に巣くうどうにもならない感情を、自分の影の醜さに怯える月夜の蟹のようだと・・・思ってしまう慎一。

正直言って、読んでいる最中は息苦しさしか残らない。切ない程に子供の気持ちが丁寧に描かれた、一冊なのでした。