3週間以上前になりますが…試写券が当たって鑑賞していた映画がありました。
山田洋次の82作目となる監督作品、第143回直木賞を受賞した中島京子氏の小説を映画化した「小さいおうち」です。
一度下書きしたものが、どこかへ消えてしまった。この半端ない疲労感!言葉になりません・・・
もう一度思い出しながら書いていく事にします。

昭和10年。布宮タキ=黒木華は18歳で山形から上京をし、東京の丘の上に建つ赤い屋根の屋敷で女中として働く事となる(差別用語として死語となっている言葉。今でいうお手伝いさん)。
そして現代。
年老いたタキ=倍賞千恵子が書き残したノート、タキに自叙伝を書くよう勧めた青年=妻夫木聡がつづられた内容を読み進めていくと言うものです。

小さいおうちでは、玩具会社に勤める平井=片岡孝太郎、妻の時子=松たか子、一人息子の恭一が暮らしていた。
そこで営まれる生活は、家具や調度。使われている食器に、キッチンの様子。着物の洗い張りの様子など・・・郷愁を覚えるものばかり。。人件費のかからない当時、一定レベル以上の家であれば、雇人がいるのは一般的であったものと思えるものの。
平井の部下である板倉=吉岡秀隆の訪問を境として、時子とタキそれぞれの気持ちに少しずつ変化が起き始めるのだった。

当時としては教育も受けたであろう良家の子女であった時子が、葛藤しつつ板倉によろめいてしまう(こちらも死語だから、心惹かれていってしまう)辺り説得力に欠けるかな。
互いにクラッシック鑑賞を趣味とする、年の離れた夫と違いを板倉に見たのであろうか。共に暮らす妻に対しそのくらいは当然なのだから、この辺りもお嬢様育ちと言いましょうか。
大らかで明るい、何不自由なく育った。結婚後も裕福な満ち足りた生活をおくる・・・時子役の松たか子ははまり役です。
時に見せる年齢相応の色っぽい表情、モダンな着物姿のあだっぽさ、階段を駆け上がる時の艶めかしい足元。

黒木華は、昨年の朝ドラ「純と愛」にて。ヒロイン純の働くオオサキホテルの同僚にして・・・普段はおとなしくて気が弱い。そのくせ都合の良い時だけ純に頼るというトホホな役柄であったのを思い出しました。
本作では、控えめな中にシッカリとした芯のある役柄を演じています。

松たか子は「隠し剣 鬼の爪」以来、同監督作品出演は9年ぶりだそうです。
「隠し剣 鬼の爪」は、山形県鶴岡出身の小説家・藤沢周平の短編を原作とした一作でした。
ただし山田監督にとっても前作である「たそがれ清兵衛」とあまりにも似た設定、ストーリーから・・・なぜ同じような作品を二作続けて撮ったのかと疑問を覚えたのは事実。
主人公は藤沢作品の特徴とも言える…東北地方の、とある小藩に仕える下級武士。
親友である狭間、彼の謀反から起きる藩内の騒動に主人公が巻き込まれてしまうというもの。習得した秘伝の剣術が隠し剣。
そこにはかつて家で働いていた女中=松たか子との身分違いの恋も描かれました。ここでの松たか子は若さと、ひたむきな雰囲気が心に残りました。
また策を巡らす悪家老に騙され、身体を弄ばれる・・・狭間の妻=高島礼子の妖艶な魅力にはドキッとさせられたもの。。

布宮タキの晩年を演じた倍賞千恵子は、「家族」「故郷」「幸福の黄色いハンカチ」・・・と、1970年代の山田作品のヒロインを務めましたが。。懐古調に描かれた過去のシーンの美しさゆえ、現代編に魅力が感じられなかったのは残念に思います。
それと時子、タキの二人の心をときめかす存在である板倉役=吉岡秀隆。もうチョッとイケメンを配して欲しかったかな。

日本映画につきものの「泣ける映画」といったセンチメンタルさは必要ではないから・・・映画を観て泣くって、皆さん好きですものね。
予告編から受ける「一家の秘密」とは。
望まずしてタキが背負わざるをえなくなってしまった秘密は、それ程のものではない。
舞台となるのはこの家だけではなく、人々の生きた時代。昭和初期から第二次世界大戦へと突入する・・・時代の変化が絡んでくるのだ。

本作の中で大きな軸となっているものに、現代版に登場する「バージニア・リー・バートン」による絵本「ちいさいおうち」があります。
時代と共に変わっていく周囲の環境、それでもただ同じ場所にあり続けるおうちの物語は、切なくも愛おしい。
絵本と同じように小さいおうちがあった事実は、タキの、絵に描いて残した板倉の…二人にとって生きた証し、生き続ける為に必要な支えとなるものであったかもしれない。
個人的に残念に思ったのは・・・
監督自らの現政権への批判、反戦思想が過剰なまで入っていた部分に・・・違和感を覚えた。監督の主観に伴う台詞があちこちに入れられているのです。
新聞やラジオが歪曲した情報を流して、容易に民衆が迎合してしまうのは何時の時代でも起こりうる事実。
それは現代においても・・・
マスコミが事実を都合よく偏向したり、誤った報道がされている事でも・・・然り。作中にあった「南京大虐殺」にしても、C国側の捏造とする説があるくらいだから。。
憧れである東京郊外に建つ、モダンな赤い三角屋根の洋館。そこに暮らすタイプの違う二人の女性の生き方が描かれたものと思いながら見終えました。

アメリカ人俳優のフリップ・シーモア・ホフマンが亡くなりましたね。死因はやはり薬でした。
彼は作家のトルーマン・カポーティを演じて、第78回オスカーの主演男優賞を受賞しています。
好きだったヒース・レジャーの時ほどではないけど、やはり残念です。
映画の世界の第一線で活躍をし続けていく重圧って、我々には想像もつかないものでしょう。

Little House

  • 作者: Virginia Lee Burton
  • 出版社/メーカー: HMH Books for Young Readers
  • 発売日: 1978/04/26
  • メディア: ペーパーバック