「P.S. アイラブユー」は、テリー・ギリアム監督作「フィッシャー・キング」の脚本を手がけ、アカデミー脚本賞にノミネートされたリチャード・ラグラヴェネーズ監督作品です。

無料動画GYAO!で視聴、2007年制作のアメリカ映画。
ジェリーとホリー=ヒラリー・スワンクの幸せな結婚生活、他愛のない夫婦喧嘩のシーンから始まる本作。

しかし場面は一転して、ホリーの母パトリシアの営むアイリッシュパブでの、夫ジェリーの葬儀の場へと変わってしまうのだ。
明るい性格のマッチョマン、ユーモアがあって、妻思いの気のいいヤツ、ジェリーの脳腫瘍による突然の死。
ジェリーがすでにこの世にいない、そうした現実を受け止められずにいるホリー。
様々な新しいチャレンジを経ても、ジェリーの不在、現状を受け止められないでいる彼女。
しかし、「アイリッシュ ハンガー メモリアル」の訪問シーンから、物語の舞台は一気にアイルランドへと飛ぶ。

※1845年から1852年にアイルランドを襲った大飢饉の悲劇を伝えるメモリアル。
ヨーロッパ全域でジャガイモの疫病が発生、枯死したことで起きた・・・アイルランドではジャガイモが主要な食物であったため、困窮した国民の多くは移民としてアメリカへ渡る。
映画化された「タイタニック号」の最後の寄港地となったのは、アイルランド南部の小さな港町「コーヴ」であったくらい。

「自由の女神像」のあるリバティー島への観光は、すぐ側のバッテリーパークからフェリーに乗って行きます。
その途中、移民局が置かれていたエリス島(欧州からの移民は19世紀後半から長きに渡り、必ずこの島からアメリカへ入国した)脇を通るのでした。


ジェリーの故郷アイルランドへの旅する事となった、ホリーと二人の女友達。華やかにネオン煌めく夜のニューヨーク#59130; その対極とも映る・・・大きな自然に抱かれたアイルランドの緑の草原、丘陵地の続く光景は全く違った美しさが感じられました#59130;
二人の過去の描写、ジェリーとの記憶、現在のホリーの苦悩がシンクロして描かれる。
ジェリーの死後も彼からは、ホリー宛てに手紙が届きます。その手紙の最後には、「P.S.アイラヴユー」の記載あり。
アイルランドでホリーは当然、ジェリーのご両親の元を訪ねます。
その名もケネディ家って、わかりやすい。アイルランドでケネディさんは多いのでしょうか。

ジェリー役のジェラルド・バトラーは、「オペラ座の怪人」でファントム役を、「300〈スリーハンドレッド〉」でも主演をしています。
「ボーイズ・ドント・クライ」、「ミリオンダラー・ベイビー」と2度のアカデミー主演女優賞を受賞したオスカー女優であるヒラリー・スワンクながら、私にはどうにも苦手な女優のひとりでした。
また2020年のアカデミー賞でも、助演女優賞にノミネートされた・・・キャシー・ベイツがホリーの母親=パトリシア。執拗で偏狂的な小説ファン役「ミザリー」の怪演で、一躍スターの仲間入りへ。
知らないと言う方には映画「タイタニック」で、デカプリオ演じるジャックを気にかけて、タキシードを着せ紳士へ変身させるおばちゃんモリ―・ブラウン役と言ったらわかるかも。
彼女は「浮沈のモリ―」と呼ばれた、実在の人物。ジャックへのおせっかいも、自身が成金であったために周囲から浮いた存在であったからと、納得の配役です(デカプリオの演じるジャックは架空の人物)。
親友役として登場していたリサ・クドローは、「ロミー&ミッシェル」「アナライズ・ユー」等からご無沙汰であった、お久しぶりの印象を受けました。

映画のラスト。ホリーへ届いた手紙は、ジェリーでなく母のパトリシアから…とのオチでガックリ#59136;
意外性もなく、甘いと言われたら、甘すぎる展開ながら・・・妻と夫、親と子といった普遍的なテーマを繋げたのは、思いやりに満ちた言葉の数々でした。

ホリー=ヒラリー・スワンクは口元の悪さの目立つ顔つき、骨ばった体型にしても下品な印象しかなかったのだけれど、本作ではスレンダー、可愛いらしく見えたのは不思議。
鮮やかな緑におおわれた広大な丘陵地の続く、アイルランドの大地。変わりゆく空と光による、大地の魅力を堪能する・・・得難いロケーションの素晴らしさ#59125; 光溢れるニューヨークの夜景と、どちらも必見の美しさでした。
原作はアイルランドの作家セシリア・アハーンが執筆、40か国以上でベストセラーとなった恋愛小説だそうです。