誰か ----Somebody

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2003/11/13
  • メディア: 単行本


あるマンションの前で、自転車にはねられ頭を強く打って亡くなってしまう65才の運転手・梶田。彼には、二人の愛する娘とささやかな秘密がありました。
今多コンツェルングループの広報室に席を置く編集者・杉村は、この事故の犯人探しに結びつくと思われる梶田の生涯を綴った本の出版を頼まれます。
運転手だった梶田は、コンツェルン会長の週末だけの運転手もしていたから。
そして杉村はあるきっかけで会長の娘・菜穂子と結婚した娘婿で、それは残された姉妹を案じた義父からの依頼によるものだった。

会長に出版を頼む姉妹であったが・・・父の思い出を本に綴って犯人を見つけるきっかけにしたいと願う妹の梨子と、出版に反対する姉の聡美。
聡美は、これを単なる事故ではないのでは?との懸念をする。
その理由は、自分には幼い頃誘拐されて監禁されたという記憶がある為。
杉村は本の作成よりも先に、梶田の過去を調べることになります。
この探偵役は平凡なサラリーマンそのものなので・・・ミステリーとは言え、なんとも穏やかな感じでストーリィは進んでいきます。
事件と違い、ほんのチョッとした不注意が引き起こしてしまうのだから・・・事故は誰もが起こす可能性のあるもの。
被害者は不運としか言いようのないものだけれど、加害者とってもそれは変わりのないものであると思う。

事件そのものには一応決着が付くものの・・・その辺りは、サラッと書かれています。
その後、これがきっかけとなって表面化してしまった姉妹の確執の方が同性としてはやりきれない。
その原因が家族ゆえに、両親に与えられたそれぞれの立場を羨んでの事らしいので、余計にやりきれなさが残るのだ。
人が生きる上ではさまざまな誰かがいて、それは互いに影響しあうもの。
家族間にある秘密、姉妹の問題、簡単に断ち切れるものではないだけに難しいものです。

平凡で小心な主人公は常に自分の置かれた立場に戸惑いながら・・・妻と娘を愛する、ほのぼのとした幸せな生活を送っている姿に救いがあります。
経済的にも恵まれている杉村が、貧しかった時代を生きる梶田の過去を探るところもミソ、ここに作者の皮肉が込められていると感じました。

この作者にしてはそれ程の長編ではないのだけれど、各描写はこの作者らしくいつも通りに詳細です。
その辺りは相変わらずだなぁと思ってしまうところなのであるが、そこが好きな人は好き、でも馴染みのない方にとっては宮部作品て面倒くさ~いとなってしまうのでしょう。
ストーリーにも意外性はないが、小さな謎がどんどん大きくなっていく展開は見られます。
杉村家、梶田家の親子、家族、様々な姿で登場する人物達。
全てが順調なわけではなく何かしら問題を抱えていて、 その辺りの描写も相変わらず上手だと思う。

「誰か」というタイトルは、サブタイトルの通り「somebody」、不特定な誰かを指しているもの。
内に問題を抱え込み、それに対しての解決を先送りにするこの姉妹でもあると解釈する事も可能である。
と、ここまで読んでも、何が何だか理解に苦しむところだと思われるのですが・・・・
要はストーリーテラーである、この作者特有の語り口を充分に堪能したと言う事なのです。
あなたは、宮部作品はお好きですか。

宮部 みゆき (ミヤベ ミユキ)       
1960年、東京生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、「本所深川ふしぎ草紙」で吉川英治文学新人賞、「火車」で山本周五郎賞、「蒲生邸事件」で日本SF大賞、「理由」で直木賞、「模倣犯」で毎日出版文化賞特別賞、「名もなき毒」で吉川英治文学賞を受賞する。
近作には「R.P.G」「心とろかすような」「ブレイブ・ストーリー」等があります。