松浦静山夜話語り

  • 作者: 童門 冬二
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2006/12/08
  • メディア: 単行本


今日は、江戸時代後期の大名、松浦静山について書かれた本の話題です。
作者がサラリーマンファンの多い童門冬二ときたら・・・よくあるハウツーっぽいものと思ってしまいがちではあるものの・・・
その当時の大名の暮らしも含めて、興味深く、面白く読めた一冊でした。

肥前国平戸藩の第9代藩主であった松浦静山は、46歳の若さでの隠居をする。
そしてその後のほとんどは江戸で過ごして、81歳でなくなります。
その間に、江戸の町で聞いた事や体験したこと、自らの考え等を「甲子夜話(かっしやわ)」と言う随筆集にまとめています。
彼は人一倍の好奇心をもち、どんな事でも知りたいとの心を、晩年になっても持ち続けた人。
悠々自適の生活を楽しむ老後を送る日々。風流を好み、心形刀流の達人でもある文武に秀でた人物であった人、静山の考えとは。
本作では、父親である勝小吉とその子勝麟太郎(後の海舟)との交流を中心にストーリーは進んでいきます。

平戸藩の歴史、各国との貿易の経緯、自分のやって来た政治の数々を静山は彼らに語っていく。
登場するのは田沼意次、松平定信、水野忠邦、歴代の徳川将軍・・・・・
日本にキリスト教を布教した事で知られるフランシスコ・ザビエル、家康から厚い信頼を受けた三浦按針(ウィリアム・アダムズ)など。
聡明である静山はこれまで行ってきた藩政の政策と実績を元に、幕府の老中に起用されることに望みを抱く。
しかし外様大名であったがゆえに当時それはあくまでも夢でしかない、様々な策を練る静山。
悪評高い人物・田沼意次や中野石翁など、松平定信、松平信明にも積極的に近づいて働きかけたのだが、それはついにかなわない事であった。

ここでも憎めない人物として捉えることが出来たのは・・・静山が幕府要人に賄賂・品々を贈るのは勿論下心を持っていたから。
しかしその相手がすでになくなってしまった後でさえ、どうしようもなく自己嫌悪に陥る箇所は笑ってしまうところであろう。
高い目標のためであればその為には手段を選ばずと言った江戸城内の人事、高い役職にいる人物達の生き様は解りやすく描かれています。
相手が子供であれ、泥棒であれ、これと思った相手の話には興味津々に話に聞き入る静山の姿がイメージされるのも、本作の魅力のひとつと思う。
それ程でもない私でさえ一気に読んでしまえたくらいなのですから、江戸中期以降の歴史に興味のある方にはお勧めの一冊です。
作者の、米沢15万石の再建を果たした興味深い人物を描いた「小説上杉鷹山」も、読んでみたくなりました。