気がつけばここしばらくの間は、お気楽なドライブ日記ばかり書き続けてきてしまっています。
それでも一応は本を読んだり、映画を見たりはしていたのです。
気がつくまででもなく、それをこうして書くのを面倒に思っていた。どう書いてよいのかわからないでいただけの事なのでした#59136;
近頃は以前のようにまとまった内容を考え、文字にして書くことが困難になってきてしまってます。これも年と言うことなのかしらね・・・

そこで読後に覚えているものだけを簡単に紹介しておきましょう。自分自身の覚書代わりに。

作家としてデビュー当時から、発売と同時くらいに購入して読んでしまっているのは桐野夏生作品です。
今日紹介するのは、初期に書かれた「柔らかな頬」。直木賞受賞作です。
この本も当然再読となるのであるが、私の記憶にあるのは冒頭の部分だけだった#59142;

主人公の森脇カスミは高校卒業時に北海道の寒村から家出をし、その後は東京でずっと暮らしてきた。
製版業を営む夫には内緒で、大手広告代理店のグラフィック・デザイナー石山と不倫関係にある。
石山は北海道に別荘を買ってそこにカスミの家族を招く。その別荘内で密会をするのが二人の目的であったのだ。
カスミにとりそこは十数年ぶりに踏んだ故郷の地でもあった。

石山との情事の翌朝、カスミの長女が神隠しにでもあったように失踪をしてしまう。
母親にとってそれはある日突然に、理由もわからないままに最愛の存在を失ってしまうこと。
時間の流れとともに失踪事件が風化していく中でカスミだけは一人、わが子への思いに囚われて娘の姿を追い求めます。
一時は家族を捨てることまで考えていた母親にとって、日常生活の中から子供がいなくなるということがどのようものなのか。。。
親や過去を捨てた人間であるカスミ、それがその後自分の子と過去に囚われていくのは人生の皮肉。

後半に登場するのは、数十年ぶりに捨てた故郷に戻ったカスミをむかえるその母。
これまでの桐野作品同様に、ここでも主人公のイメージはハッキリと描かれています。
最愛の娘を失ったことにより生きている時間を止めてしまった女は、娘を捜すことに人生の全てを捧げますが。
時を失ったままで、その先をどのようにして生きていくのか・・・・

カスミと共に娘探しの旅に出るのは、ガンを患って余命幾ばくもない元刑事の内海でした。
この男、過去には目的の為であれば何でもしたという。
道警一課の刑事まで自らの力だけでのし上ってきた内海。
今は死に向かいあいながら、これまでとは違った意味で野心の為ではなく事件に向かい合うのだ。
事業に失敗し妻とも離婚して借金取りに追われている、風俗嬢のヒモでしかない石山の変貌ぶりも心に強く残ります。

真実は最後まで明らかにされない。
本作のテーマは登場人物達の心情の変化、魂の漂流が描かれたものと思う。
人が人として生き続ける意味は?
桐野作品は毎回、暗くて重い。
それでも読まずにはいられない何かがあると思ってしまう。主人公たちの生きようとする姿勢は私の欲するものかもしれないのだから。
読み終わってみて、読後感は非常に重たいものの・・・作者の筆致はやはり冴えているものと感じられました。

ソネットに越してきて1年半程になります。
その間、ブログレポートにより送られてくる私の注目記事不動の一位は、桐野作品「東京島」なのでした。もしよろしければ#59098;http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2009-09-03
短編集の「アンボス・ムンドス」についてはこちらへ#59098;http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2009-10-13

柔らかな頬

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本



東京島

  • 作者: 桐野 夏生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本



最後に、すっかり時期を逸してしまっているものの・・・絵本作家の佐野洋子さんについて書いておきたいと思います。
30年以上も前に刊行された絵本である「100万回生きたねこ」。
この本は手にとった方、またお母さんに読んで頂いた思い出をもつ若い方は多いのではないでしょうか。
これでもこうして病気になる前は私も、子供達に本の読み聞かせのボランティアをしていました。
ボランティア活動を主としていたと言うより、自分の楽しみの為に絵本や子供向けの本をずっと読み続けてきたと言った方が正しいような気もします。

この本は、100万回死んで生き返っていたねこが主人公。
自分自身を生きていくことの困難さ。誰もが一人だけでは生きていくことは出来ない。
自分自身よりも愛するものに出会った時。その死に向かい合うと言うことなど・・・
ねこが主人公の絵本ながら、大人の心にも十分届く内容のものでした。

人生の後半からはエッセイストとして「神も仏もありませぬ」。
老いの日常生活を書き記した「役にたたない日々」。
歯にきぬ着せぬ表現で日常を綴ったそれらのエッセイからは、飾らない人柄、ユーモラスな感覚が大いに感じられるものでした。
一時は詩人の谷川俊太郎さんとパートナー生活をおくるなど、常に本音で生きる爽快感と軽やかさも。
佐野さんは先月、72歳でお亡くなりになりました。書かれたものをもっと読んでみたかったものと思い残念でなりません。

100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1))

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1977/10/19
  • メディア: 単行本



神も仏もありませぬ

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 単行本



役にたたない日々

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/05/07
  • メディア: 単行本