シズコさん

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 単行本


読もうと思いつつ・・・一月以上も置きっぱなしでおいた本「シズコさん」を読みました。
作者は、絵本作家、エッセイストの佐野洋子です。
この簡単なタイトル、作者が描いたイラスト(モガ時代の作者の母親であるシズコさん)に反して、内容は濃かった!
決して楽しくはない、ここで描かれる内容は重いものなのに、一日で読み終えてしまったのだから。
本書は新潮社「波」に、2006年から2年間に渡って連載されたものです。
そのどれもが家族の事・両親について書きながら、必ず最後には母親を施設に入れてしまった事について悔やむのだ。

中国満州からの引き揚げ後に3人の兄弟を次々と亡くした経験から、あの代表作である「100万回生きたねこ」は生まれたのだろうか。
ここでの猫は、愛する対象に出会って初めて生きる喜びを感じる。
しかし時が経つと100万回生きたねこと違って、相手の猫は死んでしまいます。そこで初めて、100万回生きたねこは悲しみを知るのだった。

作者が子供の時、欲求不満からか?彼女だけを虐待をした母。
障害をもって生まれた自分の兄弟や、親の面倒は一切を妹に押し付けて実家を省みなかった母。
孫が生まれても、お祝いはおろか洋服やおもちゃを買ってくれる事もなかった母。
作者が家を購入する時に、お金は貸してはくれたものの・・銀行を同じ利子をとった母。
家事能力の高さや未亡人になってからの頑張りについてはちゃんと認めているし、それはちゃんと自分自身にも受け継がれているとも書いてある。
それでも読んでいて、こんな親もいるのかとあきれてしまったのだけど・・・作者は繰り返し、繰り返し自分を責める。「お金で母を捨てた」という言葉が毎回出てくる。
そこに至るまでの幼い時からの両者の関係を読んだ後では、別にそこまでと思ってしまうのだが・・・それが家族の不思議さなのだろう。

私は母との間にこれまでに確執など一度もなかったと思う。自分の親を憎んだ事も、遠ざけたいと思った事もないから、この感覚はわからない。
それでも理解できたし、なぜか感動もした。
娘は母を特別な「目」で見る。反対に母親の方も、娘に対してはそうなのだろう。
その後の生き方が決定づけられてしまうほど、その影響力は強いもの。
この本は、母親と娘との関係を真正面から描いた作品に感じました。

振り返って自分自身を考えた場合。
私の父は今から13年前に、長い闘病の末67歳で亡くなりました。その父をずっと支えて、と言うよりも家族を守ってリードしてきたのは母だったように思う。
私が子供だった頃はまだ日本全体が貧しくて、国内旅行でさえあまり一般的ではなかった。それでも父は友人たちと共に日本中を旅した。
それ以外でも、一度出かけると中々帰ってこなかった。
言葉数の少ない人だったが、自分の思い通りに好き勝手に生きた人だと、死んだ後で思ったものです。
でも仕事に対しては真面目だった。社会的には決して立派でもなんでもなかったげれど。。。
病弱だった私を病院に連れて行ったのは父であったし、お土産もよく買ってきてくれた。
コートの中から出てきた湯気を出すホカホカの中華まんや焼き芋の感触は、今でも思い出せる。子供には良いお父ちゃんであったのだ。

父の存命中・・・自己中心的な父に文句も言わず、20年以上の入退院の日々も毎日献身的に父を見舞った母。
そんな母も一人暮らしが長くなって、今はすっかりワガママおばちゃんになってしまっている。でもそれでいいんだ。これまでずっと耐えて、今だってひとりの孤独に耐えているのだろうから。
長女である私は、外見も性格もそんな父にそっくりだと・・・母は言う。
結婚が早かった私に対して、長い独身生活を謳歌してきたのは弟の方。しかし結婚後、彼はうって変わって家族の為にだけ生きる人になっている。
母はその姿に自分を重ね合わせているのか、弟には絶対の信頼をよせているかに見える。

ここに書かれている内容は勿論そんな事だけではないけれど・・・考えさせられることが多いのです。
作者はこれを書きながら・・・ 幼い時からの家族の暮らしを、もう一度文章の中で過ごしたのだろう。
今は元気でいる母がもっと年取ったら、私も同じような痛みを感じる経験をする事があるのかもしれない。
まだの方には、この本は是非お勧めしたい。

エッセイでは「神も仏もありませぬ」、これは読んでいて楽しい気持ちになれる本です。
「役にたたない日々」の中では、自らのがんを告白しました。
亡くなった後に、彼女については私のブログ中においてもふれております。
佐野洋子さんを悼んで・・・http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2010-12-02

100万回生きたねこ (佐野洋子の絵本 (1))

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1977/10/19
  • メディア: 単行本



神も仏もありませぬ

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 単行本



役にたたない日々

  • 作者: 佐野 洋子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/05/07
  • メディア: 単行本