夜行観覧車

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/06/02
  • メディア: 単行本


「告白」に続いて、湊かなえ作品「夜行観覧車」を読みました。
読み終えてから時間が経ってしまっているので、細かいところを忘れてしまったり、感想は大分薄くなってしまっておりますが。。。

本作は、ひばりヶ丘という名前の高級住宅地を舞台にした物語。前作と同じく今回も、章ごとに違う人物の視点で語られていきます。
タイトルの「夜行観覧車」とは、そのひばりヶ丘で回る「観覧車」=それぞれの家族のあり方なのでした。

一軒は、医師の夫に美しいその妻。三人の子供たちはそれぞれが優秀であったり、運動が得意で見た目もカッコ良いアイドル似で憧れの的であったりする。
高級住宅地に相応しく裕福で、絵に描いたように幸福そうに見える高橋家。

そしてその向かいに住むのは、この住宅街で最も小さな家・遠藤家。
夫が平凡なサラリーマンに関わらず、身の丈に合わない所に家を建て、そこに住むことをいきがいとする妻。
中学生の一人娘は私立中学の受験の失敗が引き金となって、進学した公立中学にも居場所が見つけられず、次第に追い詰められていく。
両親に反抗的な態度をとり、家の中を手当たり次第に壊す、大声を出すなどして・・・崩壊しつつある家庭。
そんな状況に嫌気がさし自宅から足が遠のく、事なかれ主義な父親。

そんな中で起こる殺人事件は、父親が被害者で母親が加害者?
そしてそれは、周囲から問題が多いと見られていた遠藤家ではなかったのだ。

決して不仲だったわけではない夫婦・・・妻が突発的に居間にあったトロフィーで夫を殴殺した。その理由はなにか・・・・
高級住宅地に住むエリート一家で起きた、センセーショナルな事件。
前妻の息子である長男と、自分の息子を比べ絶望的な気持ちになってしまった母親。
どんなに努力をしても、異母兄ほどの能力がない事に気付いている次男。

何不自由のない毎日をおくるかの様に見えて、満たされない思いから他人へ異常なほどの関心を向ける近所の主婦・小島さと子。
登場人物のそれぞれが、ステレオタイプな人物ばかりなところは笑ってしまうところ。

「告白」でのセンセーショナルな印象が強いので、それと比べると本作のインパクトは薄い。普通に面白かったかな程度でした。
高橋家の妻の殺人の動機が弱いところが、最も納得できないでいたところに思えた。
それぞれの家族が抱える事情は、それ程特別なものではないのに…
登場する人物達がそれぞれに固執している事柄、それぞれのこだわりが高まって暴発をしてしまう。

人の心の暗部、醜さを見せつけるところに、湊かなえワールドが見られるのだけれど・・・
そこに読み始めたら止まらない魅力がある。グイグイと引き込まれます。
小島さんの言動に呆れながら、読んでいるいるこちらも彼女と同レベルになって読んでしまう矛盾。
その辺りがはまりやすい理由と思う。
殺人事件をきっかけに、それに関わる人々の心模様が描かれる。進むにつれ、登場人物たちの内面が見えてくるところも本品の魅力である。
それぞれの言動が微妙にズレて、結果。個々の価値観や行動がずれていってしまうところ・・・は、他人ごとではない。
人間は常に自己中心的なもの。世間の目を気にしたり、面倒な事からは逃げたり。
自分の発した言葉が他人を傷つけていく…描写には、自分でも思い当ってしまうのだった・・・・・

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫