下町ロケット

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: ハードカバー


昨年の上半期、第145回直木賞受賞作「下町ロケット」を読みました。
プロローグの、ロケットの発射シーン…こういった理系の分野は、私の一番苦手とするものであった。
しかしご心配なく、その後続くのは・・・スピーディなストーリー展開と、明確な人間模様。
決して裏切られる事のない、爽快な読後感が得られる、エンターティメントな企業小説となっていたのだから。。。

宇宙ロケットの研究機関、開発機構の一員としての道を進んでいた佃航平は、ロケット打ち上げ失敗の責任をとり、今は東京下町にある実家の町工場「佃製作所」の経営者となっていた。

ある日突然、大手メーカーから告げられた取引停止による、経営危機・・・そんな佃製作所は、更なる危機に陥る。
大手メーカー・ナカシマ精機から特許侵害の訴状が届くのだ。
ナカシマ精機はこれまでも法廷戦略を駆使して、中小の町工場を吸収合併してきた会社。佃製作所は主力製品が特許侵害で訴えられたことにより、またも会社存亡の危機に立たされてしまいます。

一方国内でも有数の大企業・帝国重工で、国産ロケットの打ち上げプロジェクト「スターダスト計画」の発表がされる。
プロジェクトの責任者である財前のもとに、衝撃的な報告が入ります。
社長命令の元、総力をあげて開発したエンジン部品の特許技術が町工場である佃製作所の特許として登録されていたのだ。
部品がなければ勿論ロケットは飛ばないのだから、その特許を20億円で譲ってほしいと佃製作所に申し出るのであったが・・・・

本作の主人公である佃製作所の佃航平が、ナカシマ工業による特許侵害訴訟に立ち向かう前半部分。
帝国重工相手に、特許利用・部品納入を交渉する後半部分とに分かれていて・・・町工場が取得した最先端特許をめぐって、中小企業と大企業との熾烈な戦いぶりが描かれた後半。
一流企業の社員たちから見下されてともすれば卑屈になりがちながら、会社と仕事を愛する佃と社員達のもつプライド。
決してあきらめない精神と、姿勢。
物事は見方によって、相反する両面があるという事も改めて思い知らされました。

ロケット開発に関わりたいとする佃の夢と挑戦、情熱、そんな佃をアシストする経理部長の殿村。
社長である佃の決断に反発しつつも最後は一団となって、自らの生み出してきた技術を宇宙へ繋げる社員達の物語となっていました。
そしてただそれだけでなく、資金繰りに苦しみながらも大企業と張りあう経営者としての苦悩と、奮闘も。

幾度となく苦境に立たされるものの、そこには協力と応援があり、感動のエピローグのシーンまで…王道を行く展開であった。
ここに描かれたのは、かつての日本人たち、誰もが持ち続けてきた「夢」。
日本経済をここまで成長させてきたもの、誠実に努力を重ねることの大切さを、改めて教えてくれるものと思えます。
日本人もまだすてたものではないとする気持ちになる、ストーリーでした。

ただ気になったのは、大企業=悪人、弱者達=善人とする、人物設定のステレオタイプな描き方。
追い詰められていって最後にどうにもならなくなると、必ずどこからか救いの手が差し伸べられること。現実にはそうあり得る事ではないものの…小説と言う点で、これは仕方がないものなのかと思う。

作者のこれまでの作品「空飛ぶタイヤ」、「「鉄の骨」等も読んでみたくなるくらい面白かったのです。