先の新聞紙上で、「暗い心つい読むイヤミス」との記事がありました。
後味の悪い嫌な気分になるミステリーを「イヤミス」といい、湊かなえ作品「告白」がその先駆けなのだそう。
震災直後とあって昨年は「絆」。また人々が心に癒しを求めるムードが強まったものでしたが・・・
時間が経ち、社会がただひとつの方向だけに向かう事象に対して閉塞感を感じる人に選ばれているのでは?とのコメントが書かれていました。
「イヤミス」の主な読者層は三十代女性だと言う。
ミステリーのジャンルに入れられていても、求められるのはトリックや推理ではなく、心理描写が中心である。
理想主義的な男性と比べて、女性の方が日常に潜む卑しさに敏感。人間のもつ汚さや弱さなど闇も含めて楽しめてしまうのは、逆に強さの証しかもしれない。。。ですって。
これは興味深い現象であると共に、ちょうど湊作品の「贖罪」を手にして読み始めていた私。思わずドッキリ!自分の感覚の若さにではなくて、そんなダークな部分を持ち合わせていた事にだったのだ。そう、ホントは根暗なのよ。

贖罪 (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/06/11
  • メディア: 単行本


「贖罪」は彼女のデビュー作である「告白」と同じく、章ごとに主人公が変わる独白形式で書かれている作品。
名前を聞いた事ないような平凡な田舎町。取り柄は、日本一空気が綺麗であるというだけ。
そんな穏やかな田舎町で、突然に起きた美少女殺害事件。
その時学校で一緒に遊んでいた4人の少女たちは事件が起きた事も知らずにいたが、プールで死体を発見する。犯人と出会っていたに関わらず、その男の顔をどうしても思い出せない。
その後に被害者の母親から投げつけられた激しい怒りの言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わていくのだった。

―これで約束は、果たせたことになるのでしょうか・・・

ひとつの殺人事件が発端となり15年の時を経て、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味が問われていく。

仲良く遊んでいた友達の一人、それは都会から転校をしてきたそれまではいなかったタイプの少女エミリ。
女優さんみたいに綺麗なお母さんや、豪華なものに囲まれた生活は、他の子供達からは眩しいばかりに輝いていたのでした。
男から選ばれて殺されてしまったのはそのエミリちゃんだったのだから、残された少女たちの心に何かを残さないわけがない。
エミリちゃんのお母さんから、殺人者呼ばわりされ責められる彼女達。
そこに嫉妬や優越感といったドロドロとしたものが、互いの中に渦巻いているのです。
人が心の奥に秘めている感情が終始まとわり続いているかのようなストーリーは続く・・・

互いの心の中にあるイライラや、典型的な駄目人間の思考回路もリアルに描かれているから、変に納得をしたり、気分が沈んでしまったり。そこまで?と不愉快になってしまったり。。。
五番目の告白者は、エミリの母である麻子。
その麻子にしても、エミリちゃんが生まれるまでの経緯、自己中で身勝手な生き方は褒められたものではなく、被害者だからと責めつづけられるものではないと思えるには十分すぎるくらいでした・・・・

読み終えた読後感は決して良いものではありません。
確かに不快な部分は多く疲れてもしまったものの、読むのを止められませんでした。つまり面白かったのです。
それぞれの章の中では納得のいく台詞があったりして、人間の醜さをこれでもかと描く筆力。最後に全てがつながる事件の全貌は、作者が優れたストーリーテラーであることに違いないと思わされるものでした。

一章の「フランス人形」でのきっかけとなる紗英の夫の性癖、人形への異常とも言える愛情シーンから以前見た映画「人でなしの恋」の阿部ちゃんの役柄を思い出しながら読んでしまいました。
こちらは江戸川乱歩原作の短編を映画化したもの http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2010-08-26

映画「告白」もしばらく前に見てみました。
普通は原作と比べてガッカリしてしまう事が多いのに、映画は映画でポップなシーンが散りばめられていた、キャストの演技が自然なものだったりして、面白く見ることが出来ました。
原作「告白」の感想は、http://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2011-06-10