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「冬の陽炎」梁石日著 [本]

作者の、梁石日(ヤン・ソギル)は1936年に在日朝鮮人として大阪で生まれました。
事業の失敗や放浪生活を経て、タクシードライバーに。その経験を基に書き上げたのが「タクシー狂躁曲」。
この小説は、崔洋一監督により「月はどっちに出ている」として映画化されました。
98年、「血と骨」で第11回山本周五郎賞を受賞。
「血と骨」も同じく崔監督によって、強烈な個性を持つ父親役を北野武が演じて映画化されています。

借金から逃れるため東京に来たタクシードライバーの姜英吉は、ある日不審な車を見つける。その日を境に、彼の日常は徐々に変化していくのだ・・・・
東京での毎日も返すあてもない借金を続けていく日々。そんなある日、タクシー内の忘れ物で見つけた鞄には大金と、宝石、麻薬。 
そして、彼に絡んでくるのは一癖もふた癖もある女性達。
大量のダイアモンドを売りさばく為には香港へと、ストーリーの最後は広がっていくのです。

しかしそのようなお話のすじよりも、私が面白かったのは姜の日々の部分・タクシードライバーの日常生活の描写のリアリティさの方でした。
それと疑問に思ったのは、さえない中年のタクシードライバーが姉妹で取り合うほどどうしてこんなにもてるのかと言う事。
主人公の容姿に対して特筆するような事も書かれていませんでしたから、お金もないその日暮しの男が特別な理由もなしにこんな良い思いをするのかが不思議でした。
タクシーという密室から起こる悲劇?と、ドライバーの日常を描いた部分は、さすがに上手いと思います。
人間の持つ限りない欲望が描かれた、一冊でした。

次に今読んでいるのが同じ作者の、タイの裏社会で横行する人身売買をテーマにした「闇の子供たち」。
これを原作として江口洋介、宮崎あおい主演で、阪本順治監督により映画化されています。
中古のテレビや冷蔵庫を買っただけくらいのほんのわずかのお金の為、親孝行の名前のもとに10歳にも満たない子供達が簡単に売られていく。
その先は暴力と恐怖に支配される夜の世界。子供達は毎晩、大人達のおもちゃになってしまうというもの。こちらは更に、重い内容となっています。

かつて自分の訪れたあの大好きな国が、フィクションとは言えまさかこれほどまでに深刻な問題を抱えているなんて。
最初は2000年に母と格安ツアーで、次はその4年後にお友達に誘われて(この時は豪華ホテルに、エステやマッサージ、ショッピングとマダ~ムな旅でした)と、二度ほど遊びに行きました。
わずか数年に関わらず町や車がすっかり綺麗になってしまっていたから、その経済発展の早さには驚かされましたけれど・・・・
確かにその時に私達を見るときの、タイの人々の何とも言えない無気力な、空虚な眼差しには思わずたじろいてしまったことが思い出されます。
仲良しになったガイドさんが「一度、日本に行きたい」って言った時に、一緒の友達は「日本に来たら、私の家に泊まって」と返事をしていましたが、「彼女のお給料で日本まで来る事って、夢で終わってしまうのでは」と私は思ってしまって、次の言葉が出ませんでした。

こちらもまだ途中ながら・・・富むものと富まざるものとの対比、お金に対する大人たちの欲望の深さが書かれているかと思います。
こんなディープなお話ばかりを続けて読む私、私の心もかなり病んでいるということかな[バッド(下向き矢印)]

冬の陽炎

冬の陽炎

  • 作者: 梁 石日
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: 単行本




闇の子供たち (幻冬舎文庫)

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

  • 作者: 梁 石日
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 文庫



thanks(9)  コメント(14) 
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コメント 14

デルフィニウム

心が強く保てないとめげそうな本ですね。
by デルフィニウム (2009-10-25 08:36) 

abika

お伺いするのが、遅くなってしまいました~すみません。
タイは、友人が気に入って、よく行ってます…。
…というか、こちらに帰ってこなくなってきました^^;;
by abika (2009-10-25 15:23) 

タケノコ

映画の「月はどっちに出ている」はルビーモレノさんが出ていましたね。
「闇の子供たち」はその映画の宣伝?の番組を見ました。
やはり今でも売買はあるのかなって感じで見ました。もっと大人の女性を日本に出稼ぎと偽ってという話は聞きますが・・・
24時間TVではカンボジアだったかの話を管野美穂さんがレポートしていましたね。
タイも奥地では貧困にあえぐ人も多く、観光国でありながら、
デモで空港閉鎖などもありましたし、政治的にもやや不安定なようですね。


by タケノコ (2009-10-25 16:52) 

miyata

こんばんは。
この人の作品は何冊か読みましたよ。アパッチ部落の話とか、血と骨に書いてあった疎開先の誰も通らない謎の四国の山道とか、どういうところからネタを拾っているのか、わりとわかりやすい作家でした。ああ、もっとなにか書きたいのですがまだタイピングが苦痛なのでこの辺で。自分のブログも少しづつ書いているのですが、続きません(苦笑)。でも、もう少しのような気がします。それでは。
by miyata (2009-10-26 02:29) 

Baldhead1010

近頃本をじっくり読んでないですね。
by Baldhead1010 (2009-10-26 05:43) 

hana2009

デルフィニウムさんへ

この日は、このような内容ですので、ノーコメントかと思っておりましたが・・・・

デルフィニウムさん、ありがとうございます。
私でさえ大丈夫なのですもの、きっとデルフィニウムさんだって平気かと思います。


by hana2009 (2009-10-26 14:35) 

hana2009

abikaさんへ
タイにしろ、インドネシアのバリといい、はまってしまう気持ちは私も解ります。
食事もフルーツも美味しい、見るもののは景色も、売られている小物類もみな可愛い。
何よりもあの空港に降り立った時に感じるスパイスの効いた熱い空気、夕方にやってくる狂ったようなスコールは、人の心も狂わせるものです。
あ~~、また行きたいな!
by hana2009 (2009-10-26 18:49) 

hana2009

タケノコさんへ

ルビー・モレノさんはフィリピンの方ですけれど・・・東南アジアの女性達はミニグラマーなボディと独特の可愛らしさがありますね。
二度目に行った時はその前と比べると凄いスピードで発展していたから、もう日本とあまり変わらないのでは?と思ってしまいました。

それでも、アユタヤの象の村とかはまだ貧しくて、田舎と都会の格差が感じられたものです。
タイでも山岳地帯や、近隣の国々はもっと厳しい生活を送っているのでしょうね。

空港封鎖で国際会議の開催が見送られた時は、あの国の人々のエネルギーに驚かされました。
それと共に、全くただひたすら耐えるのみで声を上げることもない、ただ個人個人の中に不満をためるだけで生きている我々日本人はどうしてこう大人しくなってしまったのだろうか!と言う事も。そう思うだけで、私自身も何をして良いのか解らないのですけれど・・・
by hana2009 (2009-10-26 19:03) 

hana2009

miyataさん、こんばんは。

コメントを下さるまでに、少しずつは回復されているのですね。
私は以前、「血と骨」を読んだだけ、その他の彼の作品は全く読んでおりません。
「闇の子供たち」に描かれた内容は、少し飛躍し過ぎているのではと読みながら感じました。

治り際は大切かと思います。どうか、無理をされませんように。

by hana2009 (2009-10-26 19:09) 

hana2009

Baldheadさんへ

実は私も、近頃は本をじっくり読んでいないのです。同じです(笑)
by hana2009 (2009-10-26 19:13) 

hana2009

cheeさん、VINNY7さんへ

nice!を、ありがとうございます。
by hana2009 (2009-10-26 19:14) 

津名 誕

こんにちは。ご無沙汰しております。
久しぶりに伺ったら、テンプレートが変わりましたね。
「闇の子供たち」は私も昨年(?)読んで感銘を受けました。
映画を観た後で原作を読んだのですが、原作の方がはるかに良かったですね。
映画は原作とは全く異なる結末といい、(子供の臓器移植を可能にする)臓器移植法「改正」のための宣伝に使われるなど、なにかと「?」がありました。
原作はもちろんフィクションですが、おそらく似たような現実があるのではないかと思います。
全くやりきれない話ですが…。

映画「月はどっちに出ている」は昔観ましたが、原作は読んでいません。
「さえない中年のタクシードライバーが姉妹で取り合うほどどうしてこんなにもてるのか」というhanaさんの疑問には笑ってしまいました。確かに私も同様の疑問と羨望(笑)を感じますが、世の中には、他の人からは理解できないけれど、なぜかもててしまう人もいるような気がします。
by 津名 誕 (2009-10-27 15:09) 

hana2009

津名 誕さんへ

こんばんは。いつもご丁寧におそれいります。
テンプレートは、昨夜試しに変えてみました。少しだけ明るくなりましたでしょうか。

「闇の子供たち」は、リンクをしている方が映画をご覧になり熱く語られていたものですから、私も本を手にとってみました。
フィクションとはっきり明記はされているものの・・・実際にあれほどのことが行われているのでしょうか。
ブラジルなどでも臓器移植を目的としての誘拐とかがあると聞きますけれど・・・私はどうしても、誇張がされていると思ってしまうのです。

映画でも「月はどっちに出ている」と「血と骨」は私も見ています。
「血と骨」に描かれている、昔の男の持つエネルギーには驚かせられました。まるで動物そのものでした!


by hana2009 (2009-10-27 18:06) 

hana2009

寅次郎さんへ

nice!をありがとうございます。

by hana2009 (2009-11-02 13:42) 

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