SSブログ

「剱岳 点の記」新田次郎著 [本]


劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))

劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))

  • 作者: 新田 次郎
  • 出版社/メーカー: 文芸春秋
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 文庫


弘法大師が草鞋千足を費やしても登頂できなかったという伝説の残る・・・立山信仰においては「登れない山、登ってはならない山」とされていた剱岳。
記録に残る剱岳への初登頂は、今から約100年前の1907年。
陸軍参謀本部陸地測量部の柴崎芳太郎隊によるものだと言う。

明治40年の夏、測量隊の中から選ばれた生田測夫らが登頂し、続いて柴崎本人が登頂に成功した。
しかし最初の登頂の際に錆び付いた鉄剣と銅製の錫杖が発見され、古い焚き火跡もあったという。
それらの遺物は、数百年前の修験者のものと考えらている。

「点の記」とは日本地図作成に際して、各地点ごとの測量をするために作られた三角点設定の記録のこと。

その当時の日本地図において、最後の空白地帯であった剱岳周辺。
これは、明治40年にその地に三角点を設置した測量官達の物語である。
時を同じくして剱岳登頂を目指す日本国内で発足したばかりであった日本山岳会、柴崎が受けたのは彼らより先んじなくてはならないとする絶対命令であった。
しかし柴崎はそれを自らに課せられたものとして、剱岳周辺の地図作成の為の測量をする。
定めた目的にむかって、着々と任務を遂行する 柴崎。
その当時は地図そのものさえ知らない人もいたであろう。
日本地図の空白をうめる、地図作成のためには不可欠な測量という仕事。山岳会との初登頂争い、案内する山人の住む芦峅・岩峅に伝わる立山信仰と・・・・・

仕事としての登山であるのだからただ登って終わりという訳でないことは当然ではありますが、私の想像を越えた事実。
限られた日程、限られた予算に押さえつけられながらも、自分達の肉体を酷使して出した結果。
未発達な測量技術と登山装備などは・・・今のように道路や車があるわけでもない。
現在でしたら三角点の為の重い標石や、やぐらを組む為の木材の運搬など、ヘリを使ってしまえば済む事であるのですけれど。

険しい山肌を上るためには、登頂の時期をあえてまだ雪の残る春から梅雨の終わりと決めた柴崎。
何週間も雪上に天幕を張り、我々には想像もつかない貧しい衣服、食料でその生活に耐えるのです。
結果としていざ剱岳の山頂には立ったものの、岩場の険しさから重い三角点標石を運び上げることができず、三等三角点の設置を断念して標石のない四等三角点とするしかありませんでした。

山麓の山案内人とともに測量に挑んだ男達、山岳信仰から剱岳を畏怖する地元住民の反発。
登頂までの山での日々、悪天候・雪崩などの厳しい自然環境。
ガレだらけの切り立った尾根へは、草履さえもぬぎ裸足で横ばいになって上るしかなかった。
そんな様々な困難と戦いながらも、測量を行う。
与えられた仕事に、誇りと、勇気、信念を持ってひたむきに取り組む姿が描かれています。

この夏映画が公開されるというだけで手に取った本でしたが、読んで良かったと思いました。
現代の日本人が失くしてしまった?主人公の真摯な生き方。
大仕事を成し遂げたに関わらず、心の中では歓びよりも哀歓の方が強く感じられたとするその心境はやるせない。
現場のことを知らない上層部の人々がただ机上の上から指令を下し、その結果へも世間体や自分達の保身を最優先してしまう。
事実の重みに対しても冷淡な反応しか示さないところなど、組織のもつ様々な面も描かれていました。

富士山は車で上がれる五合目まで、登山と言える経験は尾瀬の燧ケ岳、日光の男体山だけしかない私ですが・・・・
小説の主人公達と同じような状況で登山をして撮影した映画も、見たい気持ちが強くなりました。
先に書いた「ターミネーター4」、ケイト・ウィンスレット・レイフ・ファインズ主演の「愛を読むひと」、日本映画の「剱岳」、どれも見たい映画ですね。
thanks(1)  コメント(2) 
共通テーマ:

thanks 1

コメント 2

Peko

おはようございます、hanaさん。^^
話題のものを早速読まれたんですね~
私は読書が超~苦手なので(3行で眠れる^^;)
よく読書をなさるhanaさんはすごいな~と思います。
でもこの映画は私も観たいと思いました。
人間模様も気になりますが、映像もかなり気になります。
by Peko (2009-06-27 09:39) 

hana2009

pekoさん、こんばんは。

新田次郎作品は、以前から幾つか読んでおりました。
映画化をされたばかりの作品で、本屋さんでちょうど目にとまったものですから購入してみました。
映画を見た方が、「凄かった!すごく良かった!」と聞いて、私もますます見たい気持ちが強くなっているのです。
何しろ、主役は剱岳、主演は浅野忠信さんですもの・・・
私の読む本など、全くたいしたことないです。
by hana2009 (2009-06-27 22:55) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。