｢地下鉄に乗って｣浅田次郎著：hana blog：SSブログ

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｢地下鉄に乗って｣浅田次郎著　[本] [編集]

作者: 浅田次郎
出版社/メーカー: 徳間書店
発売日: 2006/07
メディア: 単行本

この小説の主人公は、大企業の社長の座をけって、女性用下着売りの仕事をする中年男性の小沼真次。
彼がふらりと立ち寄ったのは25年ぶりのクラス会。
その日の彼の姿は当然ながら、クラスのだれもが予想していたものとは大きく異なっていた。会では、意味ありげな・・恩師との再会も。
その後、帰宅途中に真次が目にしたものは・・・・
地下鉄駅の階段を上がった先に広がっていた世界は、30年前の風景であった。家庭内でも自己中心的な父親の姿勢に反発する、兄の昭一が自殺した夜であった。
そしてまたも過去へとさかのぼった真次は、戦後の闇市で「アムール」と名のる男に出合うこととなる。

戦後一代にして大企業を興した父親、小沼佐吉。
この作品の軸となるのは、父と息子との間に残る確執です。
この小説の主人公ならずとも、思春期に自分の親に対して批判めいた感情を抱くことは誰にでもあると思う。
タイトルの「地下鉄に乗って」は、主人公がタイムスリップする過去への入り口として、現在への出口としての役割をもっています。
私の知る・・・ウン十年前の地下鉄のもっていた、あの独特のムード。
特に日本最古の地下鉄・銀座線などの薄暗いホーム、走行中に時々明かりの切れるボロい車両など、その当時ですら古色蒼然とした独特なムードがあったものでした。
夜間でも圧倒的な数の人々が行きかう東京の地下。いくつもの、またいく層にも複雑に入り組んだ地下鉄の路線。もしかしてその中に・・・・過去へとつながる出入り口があっったとしてもおかしくはないかもしれない･･･

仕事に疲れて、家族間の葛藤を抱えて、人生にくたびれた中年サラリーマンが体験するタイムスリップ。
真次は過去と現在を行き来することにより、憎んでいた父親の生き方を理解していく。
どうしようもなく嫌なやつと思っていた父親。しかし過去の父=アムールは悪いやつじゃなかった。その反対に面倒見の良い、気の良い男と言う事が徐々に解ってきて････真次の父親への気持ちが変わってくるのだ。
それを淡々と、距離を置いた視線で作者は描いています。
良くも悪くも、この作者特有の情緒的な表現に、こちらもノスタルジーを感じつつ・・・・本を読み進めます。

小さな身体でもって働き続けた、佐吉の幼少時代。貧しく苦しい暮らしぶりと、憧れの対象であった地下鉄に対する思い。
彼は出征する時も、ひとりで地下鉄に乗って訓練先の軍隊へと旅立つのだった。
その後の闇市の時代にドル紙幣とカメラの取引で大成功をし、その時の儲け金を元手にして事業を成功させていく。
小説のラスト。
恋人・みち子は、父親と(真次も闇市で出会った)お時との間に生まれた子供であった事が明らかになる。
その結果、非情とも言える決断をし行動をするみち子。
切ない女心に痛みを覚えるものの、あまりにも唐突に思えてしまった為この部分に共感は出来なかった。
これまで読んだ浅田作品に言えることながら、今回もとても読みやすい本でした。自分自身が地下鉄に乗って運ばれるかのように、あっという間に読み終えてしまいました。
これまで地下鉄は外の景色見られないからつまらないと思っていましたけれど、この本を読んだ後に乗ると異空間を感じられるかもしれませんね。
堤真一、大沢たかお、岡本綾、常盤貴子出演で、映画化もされています。

地下鉄(メトロ)に乗って THXスタンダード・エディション [DVD]

出版社/メーカー: ジェネオンエンタテインメント
メディア: DVD

タグ：地下鉄に乗って　浅田次郎映画　地下鉄に乗って堤真一　大沢たかお　岡本綾　常盤貴子

2010-04-23 13:19 thanks(11) コメント(14)
共通テーマ：本

thanks 11

親子の確執とは少し違うのですが
身内で年金生活になって妻からお小遣いをもらえない（妻が渡さないという）
いとこの大病おばの死いろいろあって他の者はそれなりに支えます。金でなくお手紙ひとつでいい！しかしこの人は「５０年近く暮らした愛媛県の県民性らしいですがもの金を添えねば心が伝わらない」逃げ回る人がいてさびしいです。今は気にしないようにして、地元で自分の思うようにやってはいますが。極めつけの言葉葉のこしてあります。
なくなったお父様が生きていたらどうしてほしかったかしら？
by にこにこ (2010-04-23 13:31)

にこにこさんへ

それはご夫婦間にある長年の確執でしょうか。
それを含めて・・・・どこの家庭でも、何かしらはありそうです。
by hana2009 (2010-04-23 18:55)

もももんががさんへ

今日も来てくださって、nice!をありがとうございます。

by hana2009 (2010-04-23 18:57)

おもしろそうですね＾＾　これ、映画で見てみたいです♪
hanaさん、本を読むのが速そうです。
実家の街では、地下鉄はないんです…。　そういえば、こちらは、S市にしかなさそうです。
（※交通渋滞もなく…必要ないですね＾＾；）
by abika (2010-04-23 19:31)

この本は不思議な切ない余韻がありますね。

by デルフィニウム (2010-04-23 20:23)

これは映画になりましたねと思ったらそちらも書かれていますね。
鉄道員のあとに映画化された？
これまた、堤真一がいい味出しています。
by タケノコ (2010-04-23 23:17)

堤真一　大沢たかおさんは俳優では好きな人達です！
その俳優が出て映画化されていると言うと・・・見たいものだと思います！
でも、小説と映画では違うでしょうね！
by j-yoshi (2010-04-23 23:23)

abikaさんへ

私が本を読むのは、いつもベッドに入ってからなのです。だから何ページか読むだけで、すぐに寝てしまう。
普段は、一冊読むのに何日もかかってしまうのですけれど･･･面白いものはすぐなのです！

北海道では、地下鉄なんて!
普通の道路を走る方が、ずっとずっと気持ちが良いですね。
by hana2009 (2010-04-24 11:49)

デルフィニウムさんへ

理解したと思える父親にしても、もう長くはない事ですし･･･生まれる事のなかったみち子の存在もですね。
浅田作品は、そのどれもが切ないものが残るような気がします。
生きていく事って、そう楽しい事や、幸せを感じる時ばかりではないと言う事なのかな。

後のｺﾒﾝﾄは、消しておきますね。
私も、毎晩リストアップ!!　チョッと、綺麗を目指します！
by hana2009 (2010-04-24 11:55)

タケノコさんへ

偶然にも、手に取った本ですから･･･映画化のことは知りませんでしたが。

真次役が堤真一で､若き日の父役が大沢たかお。
見ていないのでなんともいえませんけれど･･･私のイメージでは、反対の方が良い感じなのですけど・・・
でも大沢たかおでは、くたびれたサラリーマン役にはカッコ良過ぎるので、その配役なのでしょう。
堤真一も勿論、私の好きな俳優さんです。
by hana2009 (2010-04-24 12:02)