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「キャタピラー」若松孝二監督作品 [映画・DVD]


キャタピラー [DVD]

キャタピラー [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: DVD



若松孝二監督作品「キャタピラー」を、ようやく見ることが出来ました。
本作品の演技により、寺島しのぶが同年のベルリン映画祭において最優秀女優賞を受賞しています。
35年前の熊井啓監督作品「サンダカン八番娼館 望郷」において田中絹代が受賞して以来であるのですから、それは大変な快挙と言えると思えます。
本映画は、ドルトン・トランボ監督作品「ジョニーは戦場へ行った」、この作品は高校生の時にリアルタイムで見ていました。
そして、江戸川乱歩の短編小説「芋虫」とがインスパイアされて作られたものとの事。
先に小説「芋虫」は読んでいますので、その辺りについてはhttp://hana2009-5.blog.so-net.ne.jp/2010-08-26

妻・シゲ子=寺島しのぶの元に、四肢のなくなった姿で夫の黒川久蔵=大西信満が戻って来ます。
喉も傷病した夫は口もきけず、聴覚も失った故に耳も聞こえない醜いその容貌となって。。。
夫の家からその世話を押し付けられたシゲ子。
そんな状況との関わりを避けるように・・・訪れる人もろくにない二人だけの隠遁生活が続いて・・・そこだけは世間から切り離された奇妙に静寂な時間が流れます。

食べる、寝る。食べる、寝る。の繰り返し・・・
彼女は夫の介護に疲れていくが、それに反して食欲と性欲のみになってしまった夫は強く欲求し続ける。
ここでは、それほどの状況に置かれてもなお生き続けようとする生命力の強さ、人であることの残酷さが感じられます。

小説の中の須永中尉、映画のジョニーと同じように言葉を失い、また両腕、両脚も切断されてしまった事から自らの意志で身体を動かすこともできずにいる久蔵。
周囲からは「軍神様」と称えられはするものの・・・どうにもならない自分の存在に苛立ち、その意識は現在と過去とを何度も行き交いながら、孤独と沈黙の中へと落ち込んでいく。
戦争も終わり解放感で浮き立つ村の人々とは反対に、夫は自らの死を望むようになるのでした。

映画の中のシゲ子は、乱歩の描いた貞節な妻・須永時子のイメージとは違って、明るく奔放で現代的。
寺島の白い割烹着姿、田植えの時の早乙女姿などシチュエーションによるものか、野太さの感じられる役がピッタリとはまっています。
夫にも時には優しく、時には強く…そして次第に、そんな夫でも自分の思うがままに感情を満たす道具として見なしていくところにの人間臭さが見られました。
寺島しのぶは、夫への屈折した愛憎をシーン毎に体当たりで演じています。

夫婦の相反する愛憎が交錯する、衝撃的な乱歩の書いた小説のラスト。
と比べて…少し物足りない感じがしてしまいました。
小説の方は、人のもつ残酷さや倒錯する意識・深層が描かれたものであったが・・・
反戦映画として作られたこの映画、そこでタイトルも「キャタピラー」となったものか。
戦争に翻弄されたひと組の夫婦の姿を通し…戦争がもたらす愚かさや哀しみ、失望。「生」と「死」、その源である「性」が描かれています。
若松監督が60年代に監督した、反体制の視点から描いたとされる映画の数々と、共通するものがあるのかもしれない。
エンディングに元ちとせの歌う曲「死んだ女の子」が効果的に使われています。

本日は週の始まりに関わらず、通院二か所。その他にもプラスαで一日が過ぎてしまいそうです。
先のプレゼント大作戦にはまだ続きがあり。その他にもネタはあるにはあるものの・・・書いている時間がない。
そこで、以前、下書きしておいたものをアップしておきます。
皆様のところへは、今夜以降に伺います。

thanks(57)  コメント(19) 
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コメント 19

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ミッチー

性欲以外何もできない夫の在宅介護
妻にとっては痛ましい在宅介護ですね
寺嶋しのぶさんだから演じられるのかもしれません
by ミッチー (2011-12-12 08:33) 

ameya

深そうな映画ですね。
観てみたいです。
by ameya (2011-12-12 08:55) 

まゆまき工房

hanaさんの解説で、私も見てみたくなりました。
by まゆまき工房 (2011-12-12 09:27) 

sumairu

乱歩読み直してみようかしら(^^
by sumairu (2011-12-12 11:49) 

サンダーソニア

お忙しそうですね。冷えますから外出にはご注意を。
by サンダーソニア (2011-12-12 13:04) 

citron

寺嶋しのぶさんの苦悩を演じた演技を見てみたいです。
戦争の虚しさ、在宅介護の壮絶さを考えさせられるよ
うな作品ですね。
by citron (2011-12-12 13:18) 

まつき

いろいろと考えさせられる内容ですね・・・。
食べる、寝るの繰り返し、う~ん、私??(^◇^;)
二か所の通院、行くだけでも疲れてしまいそうです(>_<)
無理しないで下さいね~(@^^)/~~~
by まつき (2011-12-12 14:54) 

くまら

毎度レンタルしようか迷う作品ですが
江戸川乱歩の芋虫の映画化?(してたらごめんなさい)と思えばいいんだ。。。
今度、時間が有る時に、じっくり見たいです。
by くまら (2011-12-12 14:57) 

j-yoshi

私も見たい映画です!
今度レンタルに行って見ようかな!
by j-yoshi (2011-12-12 16:04) 

hana2011

ミッチーさんへ
寺島さんは演技だけでなくて…お顔の方も昭和顔かと思います・・・

ameyaさんへ
映像として2時間ほどで見てしまえるのは魅力ながら・・・やはり原作に描かれた先の方が、私は魅力的に思えました。

まゆまき工房さんへ
お時間がありましたら、ご覧くださいね。

sumairuさんへ
両方比較してみると、私的には乱歩の書いた小説がお勧めです。

サンダーソニアさんへ
好天に恵まれたせいか、しぞーかは本当に温かですね。
私は、帰宅後の寒さにやられたみたい。今日は風邪気味です。

citronさんへ
小説のラストとは違った設定の為、夫の死に気づくところまで描かれずに終わってしまっています。
寺島さんのシゲ子は、中々逞しく健康的に感じられました。
あの物が何もない時代、家で一人で夫の面倒を。想像するだけで、言葉になりません。

まつきさんへ
それは、私にも言える事。こちらこそピッタリなのです~
ありがとうございます。
夕方4時半に、ようやく自由の身になりました。でもこれから、夕食の支度もしないと・・・
その分、明日は一日のんびりと致します。

くまらさんへ
本作が封切された時。その時から、見たかった映画です。
年齢と共に、日本映画の良さを感じております。

yoshさんへ
私は体の不自由な久蔵の姿と生き方が、とても他人事とは思えなくて・・・見ていて辛いものがありました。


by hana2011 (2011-12-12 17:12) 

はなちゃん104M

hanaさま、普段から大雑把な私ですが、どんな言葉が相応しいのでしょうか・・。
せっかく簡単にレンタルが出来るように
なったので、次回はレンタルしたいと思っています。
風邪気味なんですネ。お礼をと思いましたが、今夜は
勝手に遠慮させて頂きますネ。 お大事になさって下さい。
by はなちゃん104M (2011-12-12 18:32) 

薔薇少女

キャタピラー、ずっと見たいと思っていました!
子供の頃、縁日なんかには必ず何人かの傷痍軍人さんが
『箱』を持って立ってられたのを思い出しました。
当時はこの夫婦に似た状況は現実に有ったかも知れませんね!
by 薔薇少女 (2011-12-12 21:34) 

aatyan

風邪気味でしたか?夕方は失礼しました。
お大事にしてくださいね。
「キャタピラー」 覚えておきます。

by aatyan (2011-12-12 21:42) 

hana2011

はなちゃん104Mさんへ
あちらの温かさ、戻ってからの栃木の冷え込みでやられてしまったようです。
その上、今日は通院が重なってしまい・・・夕方まで健康の森へ一人で行っていました。
私は先に原作を読んでしまっているから、それ程とは思えませんでしたけれど、興味深い内容でしたわよ。

薔薇少女さんへ
皇居や靖国神社などで、私も見かけたことがありました。
戦争とは関係ありませんけれど…今日はリハビリのために入院していた病院への通院日でした。
身体が不自由になった御主人の車いすを押して歩く奥さんの姿を何度か見かけましたが、退院後の日常生活における困難さが想像されて・・・何とも辛くなってしまったものです。

aatyanさんへ
寺島さんがベルリン映画祭において最優秀女優賞を受賞した時から…どのように演じたものか気になっておりました。
by hana2011 (2011-12-12 22:27) 

pandan

興味深いです、観てみたいかも。
by pandan (2011-12-13 07:11) 

hana2011

pandanさんへ
お目につきましたら、ご覧くださいね。
by hana2011 (2011-12-13 09:31) 

KEI

この作品、観ました。
確かに寺島しのぶの演技は見事でしたね。
ただ私にはそれ以外はもうひとつの感じがして、レビューを書いていません。
若松作品では連合赤軍のあさま山荘(題名ド忘れしたしました・・笑)が良かったですね。
by KEI (2011-12-14 00:24) 

hana2011

KEIさんへ
先に原作を読んでしまった場合はほぼガッカリするものですけれど、本作も、反戦映画と捉えられる様な結末に不満が残りました。
寺島さんも悪くはありませんでしたが・・・・やっぱり悪人における深津さんの方が良かった。日本アカデミー賞において最優秀に選ばれたのは納得の思いがします。
乱歩の描いた「芋虫」の世界、「ジョニーは戦場へ行った」を見た後の感動までには至りませんでした。
by hana2011 (2011-12-14 10:40) 

hana2011

nice!を下さった、皆様へ
何時もありがとうございます。

by hana2011 (2011-12-15 07:51)