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「玻璃の天」北村薫著 [本]


玻璃の天

玻璃の天

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本


「玻璃の天(はりのてん)」は、作家の北村薫によって書かれた「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の三篇からなる推理小説です。
昭和初期の上流階級・花村家を舞台にして、主人公は花村家のお嬢様・女学生の花村英子です。
そこに彼女の専属運転手である、この時代には珍しい女性運転手の別宮(べっく)みつ子=愛称「ベッキーさん」が、非常に重要な役割を果たしている人物である事も。

「幻の橋」は、死亡を伝える新聞記事がきっかけとなって長年犬猿の中となる内堀家のお話です。
その孫どうしである百合江と東一郎が出会い互いに惹かれあって・・・・ふたりは、ロミオとジュリエット状態になる・・・
ロミオが持参した一枚の浮世絵より、内堀家における過去と現在がつながった。そしてここに、タイトルとなる事故の張本人でもある段倉も登場してきます。

次の「想夫恋」。
英子の学友で琴の名手である綾乃が失踪をする。彼女の残した暗号の記された手紙。英子はベッキーさんのアドバイスにしたがって、和歌につながる暗号を読み解く。

「玻璃の天」は、建築家の乾原が建てた末黒野邸で起きる事故のお話。
晩餐会の余興である映画の上映中に、末黒野邸のステンドグラスの天窓から思想家・段倉の死体が落ちてくる。
そこには作った建築家本人も登場して・・・・果たして、それは事故か、殺人か。
ここに描かれたストーリーにより、この時代が戦争へと突き進んで行く時代であった事がよくわかる三編です。
その象徴と言えるのが段倉のキャラクター。車中でのベッキーさんとのやり取りにも、この男の薄っぺらさが象徴されているように私には思えました。

三話を通じて最も興味深く、強い印象を残すのは運転手であるベッキーさんです。
作品の中に出てくる会話。
謎解きのヒント、博学で様々なことに通じる考え方など、知識の豊かさには驚かされるばかり。その上、当時としては長身で理知的な容姿をもつスーパーウーマンなのだから、同性としては喜ばしい事この上ない。
本作のラストに、この事件を通じてベッキーさんの過去が明らかになるのでした。

これでは誰もがもっと読みたいと思わされるもの・・・と思ったら、ちゃんと「ベッキーさんシリーズ」があるのですね。
一作目の「街の灯」、「玻璃の天」、「鷺と雪」と続いているのです。
この作品は「街の灯」の続編なので、そちらから先に読んだほうがもっと楽しめたような感じがしましたけれど・・・
今私の手元には、三作目となる「鷺と雪」が。これはゆっくりと楽しみながら読む事に致しましょう。

「玻璃の天」は直木賞候補作に。
その二年後に書かれた「鷺と雪」にて、作者は第141回直木賞を受賞しました。
その前年の直木賞候補作となった「ひとがた流し」についても、以前のブログで書いておりました。
簡単なものなのですけれど・・・アップさせて頂きます。

ひとがた流し

ひとがた流し

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2006/07
  • メディア: 単行本


今週読んだ一冊はこれ「ひとがた流し」です。
「朝日新聞」に昨年8月から今年の3月まで連載されていた小説ですので、お読みになった方も多いのではないのでしょうか。

「ひとがた流し」は三つの家庭の物語であり、そしてまた、アナウンサー、作家、写真家の妻として、それぞれの40代を迎えた女性たちが、互いの人生を見つめる物語なのです。
アナウンサーをしている千波、一人娘のさきと暮らす作家の牧子、娘・玲が生まれてすぐ離婚し今は写真家の類の妻である美々。
都心から離れた埼玉でそれぞれに暮らしながらも、3人の友情は続いている。
離婚、子供の成長、親の介護と、時をかさねながら彼女たちは40代を迎えます。
ある年の4月から、朝のニュースのメインキャスターという抜擢をされる千波ですが。彼女は喜びもつかぬまで、自分の身体がもう治る見込みのない病に冒されていることを知るのです。

学生時代からの信頼しきった関係と、ともに過ごした時の重さがうまく描かれています。
しかし3人の日常生活を淡々と静かに描いていくはじめの3分の1位は、物語に流れがなくて読みにくさを私は感じてしまいました。
死が近いことを悟る千波は、突然とも言える後輩良秋のプロポーズを受け入れ結婚をします。
子供の頃、亡くなった母と共にひとがた流しを作ったことを思い出し、今の一歩をどう踏み出すか、今に集中する決心の上で。
どうにもならない障害があるため愛が一層輝く、そのあたりも上手く書かれています。
別れにむかい3人の思い、家族の絆が深まっていく課程は誰もが羨ましくなってしまうことでしょう。読後は、静かな余韻の残る物語でした。2006.12.13の日記より・・・・・


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abika

最初に読みにくさを感じてしまうと…そのままになってしまうことがよくあります。
どこかで、はまると(?)一気に読み進むのですが…^^;
別れに向かって深まって行く家族愛~余韻が残りそうですね。
by abika (2010-06-02 20:13) 

hana2009

abikaさんへ

内容の解りにくい中を、コメント下さりありがとうございます。

正直、上の一作目の幻の橋はあんまりでした。
それでも読んでいる内にドンドン面白くなってきたのです。書いたように、ベッキーさんが最高にカッコ良かったからですね。
by hana2009 (2010-06-02 22:16) 

hana2009

北村作品を読んだ事のない方、上記に関心がないなぁと思われる場合は、無理にコメントされなくても大丈夫でーす~
ご心配なくネ!
by hana2009 (2010-06-02 22:20) 

デルフィニウム

大人買いではなくて大人借り(図書館)したらよいようですね。

by デルフィニウム (2010-06-03 07:44) 

もももんがが

もももんがが、本を読み出すと寝ないで読みきってしまう性格なので、
「読みたい!」と思っても、「さあ!読むぞ!」になかなか至らなく、
未だ読んでない本がゴロゴロしています^^;

なので図書館で本を借りても、なかなか手を付けず終わることもしばしば。

そうなるとやっぱり、2時間くらいで終わる映画を見ちゃうんですよね^^;

でもこのご本も気になるわぁ・・・。
by もももんがが (2010-06-03 14:57) 

hana2009

デルフィニウムさんへ

本の大人買いは良いですよね~~!
デルフィニウムさんのようなキラキラ~☆は、買えないものの・・・・本は焦らずにゆっくり読みたいものですから、買ってしまうことが多いのです。
実家には常に、弟が大人買いをした本が沢山置いてあります。読み終わってじゃまになると実家へ持ってきてしまいます。
その本を、母が読んだり、私が読んだり・・・これもリサイクル!!

実家に置かれていない方は、図書館でしょうか!
結構、面白い内容の本でした。
by hana2009 (2010-06-03 15:43) 

hana2009

もももんががさんへ

私にとって、本は寝る前のお薬のようなもの。
それでも、のってくると遅くまで読んでしまう事もありますし・・・また夜中に起きてしまった時とかにも。
年なのか、夜中に目覚めてしまう事が多いのです。

映画も好きですが、小説を読む事も好きです。
私なんか、ホント表面上だけを読むにとどまっているものの・・・想像力と言う点では、本の方が楽しいと思ってしまいます。

ここに描かれた昭和初期の上流階級なんて・・・すごい遠い世界ですものね!

もももんががさんの映画のお話は、私もとっても楽しみにしていますの!!

by hana2009 (2010-06-03 15:52) 

hana2009

りぼんさん、dorobouhigeさん、PENGUINGさん、c_yuhkiさん、miyataさん、wattanaさん、ちー坊さん、うつマモルさん、miyukimonoさん、j-yoshiさん、あんれにさん、うしさんさんへ

皆様、nice!をありがとうございます。
by hana2009 (2010-06-03 15:55) 

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